柏 秀樹 OFFICIAL BLOG
ヒデキの部屋
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ひとりごと…
ABS装備があっても、なくても定期的なブレーキ練習を♫
結論から言えば、バイクにABSは装備されていたほうが良い。それは間違いのない事実である。とはいっても「ABSがあるから大丈夫」という人はいないと思う。
ご存知の通り、ABSは制動距離を短縮するのではなく、転倒を完全に防ぐ決定打にもならない。強いて言うなら「制動時のリスクを大きく低減する機械」であることを頭ではちゃんと認識されていると思う。
タイヤをスライドさせて走るロードレースやモトクロスなどではABSが装備されると、かえってコントロールがやりにくくなるからレースの世界では使われていない。
同じ場所をグルグル周回する限られた場所で速さを競うレースでのお話しであって、生き物のように刻々と表情・危険度を変える道に対して世の大半のライダーの安全を考えたら「ABSは装備されているほうが良い」という考えに至ると思う。ミスをしないライダーは、この世に存在しないからだ。
二輪用ABS技術の進化は著しく、最新の国産スーパースポーツあるいは最新の輸入外車ならそのままロードレースに使えるのではないかと思うほど高次元にまとめられている。
スーパースポーツ系のブレーキは非常に強力に効くのだが、ホイールベースが短く、相対的に重心位置が高くなってしまい、さらに運動性能を高めるためにキャスター角が少なく(フロントフォークが立っている)、しかも前輪荷重を大きく取っているため、ABSが装着されていないとブレーキレバーを指先一本でギュッと握るだけで簡単に前輪ロックしたり、一気に前転という憂き目に遭う。また、ABSが装着されていても、高度な制御が行われていないと前転や前輪スリップダウンの可能性が高いという事実がある。
最新式スポーツABS装備車は、4本の指をフルに使ってガツンとフロントブレーキを掛けてもほとんど後輪が浮き上がらずに強烈な制動力で減速&停止してくれる。しかも、ABSが作動しているのかわからないぐらいにロック&ロック解除の繰り返しによるショックが少ないのでライダーの姿勢安定性が極めて高い。
ABS作動中にフロントフォークがほとんど伸びたり縮んだりしないのだ。というかその伸び縮みが少なすぎるのではないかと思うほどに自然な制動をしてくれる。この伸び縮みが少ないからこそリヤが浮き上がりにくいわけだから、結果的にはロック直前ですでにブレーキを解除して次のブレーキ入力段階へ入る作動のようだ。
ともあれ、最新スポーツ車用ABSを、サーキットで3桁を超える速度から、ブルブル震えるほど寒い雨の中で気合いを入れてトライしたことが何度もあるのだが、「時代はここまで来たか!」と感動してしまうほど安全にガッツリ効く。脳ミソが前側に寄って気持ちが悪くなるぐらいハードなブレーキが自在に試せると考えるだけで目まいがする方がいるかもしれない。
ABS作動に必要なことはライダーの大胆な実行力のみ。一気にガツンとレバーを握るだけ。もはやライダーのデリカシーや特殊技術は不要。強いて言うなら体が前へ飛ばされないように強烈なニーグリップをしてバイクと一体になることだけだ。
ただし、モトGPのライダーが掛けるであろう、その強烈なレベルのブレーキングは、おいそれと一般ライダーが試せないのもまた事実ではないだろうか。クルマのABSでさえ、ちゃんと作動させるほどブレーキペダルを踏み込めないドライバーが多いという現実を考えると、世の大半のライダーはABS装着車のABS性能をフルに引き出せないまま乗っている可能性が高いともいえる。
ABS装着車が各社から増えてきており、最近では250ccクラスのスポーツ車にまで及んでいる。一部の大型バイクだけにセットされていた時代はすでに過去のことになりつつある。でも、ABS装着車の数が増えても、ABSの性能をフルに引き出せるライダーの数は比例していないかもしれない。
理由はABS体験をするチャンスが少ないことと、さまざまな路面や速度できっちりトライしておかないと、本当は不十分とさえ言える。実際の現場ではリヤだけABSが作動してフロントのABSは作動レベルまで握り込んでいない場合が多いようだ。強いフロントブレーキ入力は怖い!という恐怖心がすべてそこにあるからだ。
私は過去に相当数のライディング講習を開催してきたが、練習なしでいきなり高い速度からの前後輪同時にABSを作動させられるライダーは多くない。ABSを信用しているし、頭では安全とわかっていても体が拒否反応を起こしているのだ。
たとえばABSがまったく作動しない程度のブレーキ入力のまま、本人はABSを作動させたと思い込んだり、ABSが作動しているけれど、減速の途中や停止直前で無意識にレバーを緩めてしまっていることが実に多い。特に完全停止直前が怖いようだ。
私はバイクを新たに購入するならABS装着車をお奨めしたい。練習の時にまったくABSが使えない技術レベルであっても、実際の公道でパニックになり、四の五の考えずに思い切りブレーキレバーを握り、思い切りブレーキペダルを踏んでしまう。まったくブレーキに自信がないライダーにこそ、その可能性がとても高いのである。
いつどんな時にどれだけ掛けるのか、ブレーキ能力が十分にあるライダーなら平常心が維持できるので先読みをして早めに確実な操作ができる。これに対して、ブレーキ能力が不十分なライダーは、自分のレベルを認識できていない。つまり能力以上の速度を出し、しかも危険が直前に迫っているのに危機を感じ取れずにブレーキ対応が遅れる傾向が強い。なので途中で、ことの緊急性にやっと気がつき、いきなりガッツリ掛けてしまう。だからABSが不可欠になるのである。つまり、目が開いていても実際は緊張していて状況が見えていない。そんな人のためにこそABSなのである。
以前、こんなことがあった。講習時に周囲のライダーが積極的にブレーキ練習しているのに、どうしてもブレーキ練習をやらないライダーがいたので理由を聞いたら「法定速度で安全運転しているから」という。
法定速度でも人やクルマが自分の前をいきなり横切ったらプロでも転倒することがある。大切なことは、必要な時に必要なだけ減速停止ができること。それでも練習しないとか、練習しても十分にブレーキができないならABS付きバイクに乗るべき。
ABS付きバイクでもブレーキの練習をしないと、危険に対する読みが甘いまま、普通のブレーキすら十分にかけられず、転倒や衝突をする可能性が高く、事故率は減らない。
制限速度ぴったりの「安全速度」なのに、カーブ手前で怖くなったためか、いきなり後輪ロックさせて、対向車線へ、という例も実際の峠道で見たことがある。
そのライダーは軽いスリップダウンで済み、大事故にはならなかったがABSがあれば無転倒だったかもしれない。ブレーキは早めに穏やか入力から次第に強くという基本操作を、頭でわかっていても体がわかっていない典型的な例だ。
フロントブレーキが怖いために、そのライダーはリヤブレーキを主に使い、フロントはほとんど使えないまま何十年も乗ってきたという。
その癖を本気で直す気がないとすれば、あれこれ考えるよりもABS付きバイクに乗って、現状よりも安全な環境に自分を置くべき。命があってのバイクライフなのだから。
ともあれ、ABS付きバイクでも特にフロントブレーキが使えるように普段から正しい方法で練習をしたい。まず、リヤブレーキは穏やかな減速と車体の姿勢安定性を引き出せるが、制動距離が短く出来ない道具。対するフロントブレーキは車体の姿勢安定性は減少するが制動距離をできるだけ短くすることができる道具ということを認識しておく。
ブレーキ練習はすべてに優先することだが、加齢によりライディングレベルが低下したり、知らないうちに癖がつくことが多いので走行距離に関係なく1年に1度は、レッスンを受けるべき。ABS付きバイクでも、その方が明らかに合理的だ。
コーナリング中にABSは効かない!は正しくもあり、間違いでもある。ある程度のバンク角までならABSが作動して助かることが多い。まずは車体が垂直状態でリヤのみ、前後同時、あるいは余裕があればフロントのみでABS作動体験を積極的にしておきたい。前後連動式ABSの場合でもペダルとレバー入力別々の練習をして、その違いやメリットを実感しておくべき。前後輪連動式ABSが現在ではもっとも安定度が高く確実に制動停止に持ち込みやすい。ABSのキャンセルができるバイクでの練習もオススメ。それぞれの練習ができるメリットがある。
※上記は、以前に「風まかせ」という雑誌の連載コラムでの加筆修正文です。
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