柏 秀樹 OFFICIAL BLOG
ヒデキの部屋

  • ひとりごと…

ハングオフは危険?邪道?

柏流=KRS流ハングオフの考え方です。

まずは前ふりで、BM:2000年2月号のビッグマシンの表紙の写真に沿って、柏流Uターンから。
講習で注意点をちゃんと習って、常に日頃からライディングのポイントを意識化し、正しい手順でちゃんと熱心に取り組んでいけば、確実に皆様の意識も技術レベルも大きく進化することでしょう。ライディングスキルって、頑張れば上手くなる、飛ばせば上手くなるというほど単純なものではありません。頑張らないでリラックスして練習した方が、むしろはるかに安全で、しかも上達が早い、というロジックがKRSの主眼なのです。

写真のようにフルステアでフルバンクをするなんて実生活において意味はありません。ひとつの技術的指標になるかも、という程度のこと。やはり、絶対に転ばない、という意識ともっとも安全性の高い方法を選択することこそ重要です。だから、現実は何10種類ものUターン方法の中で、少しでも不安があるなら「降りてやればいい」「イチバン確実な方法を選択する」が正しいのです。

つまり、判断力こそが最優先したいわけです。でも、「できないまま」では不便だから、確実な練習方法で、できる方法をゆっくりじっくり増やして行けばいい。たとえばKRSは、Uターン練習こそ直線走行でやるべき練習がたくさんあると考えています。確信が持てたら次にかなり大きな円周を描きます。そこで得たポイントを前提にやや小さめの円周回をします。そして体から緊張が抜けてきたら、さらに小さく円周回します。つまり、いきなり小さな円周回をするからミスが大きくなるし、いつまでも問題が解決できないのです。

そして、多くが失敗する理由が頭と体でわからないままで何十年も何十万キロとそのままの状態で走ってしまうのです。

やっとここでの本題「ハングオフ」です。

実はUターン上達の手順と本質は同じ。判断のよりどころとなる「モノサシ」に沿って着実な方法を練習するのみなのです。

私がいうところの「ハングオフ」は「ハングオン」とも言います。これはカーブで腰を車体のイン側にずらして乗るフォームを指します。

ハングオフ=カッ飛び=膝擦り、という旧い図式:イメージにとらわれている方が多いようです。つまり、ハングオフは頭から危険と思っているのです。本当でしょうか。

私が言うハングオフは、速度を出さずに、太極拳のようなゆっくり穏やかで滑らかな動き=走りのひとつの事例としてのハングオフ型フォームをとること。言い換えると、いかなる時も、ゆっくり正確に自在に大きく動けること。その一例としてハングオフに取り組みながらコーナリングするのです。

ゆっくり速度のハングオフなんて、やれるの?、やる意味があるの?と思われるかもしれません。常識外れだから理解できないかもしれません。でも常識は、はたして真実でしょうか?

この「柏流ハングオフ」には、大前提があります。CKM:センターキープメソッド走行 あるいは
L1(レフトラインから1メートル保持)走行 の厳守です。CKMかL1。これがモノサシです。その上でハングオフをやろうという方法。しかも、それが余裕の目安になるだけで、ハングオフが目的ではないのです。

まず、フォームのことを意識せずに自分の車線中央をきっちり保持したままで、結果的にここから外れないように走ることです。これがCKMです。路面に滑るものなど避けるべき状態ではその限りではありません。制限速度ぴったりで自分の車線のど真ん中って、完全にできていますか?できているつもりでも実際は50センチ以上、センターラインやガードレールに寄っているものです。まるでモノサシで計測して、ど真ん中を寸分たがわずに走ることを目標とします。

その上で今度は、同じ速度でCKMしながら変幻自在に体を動かすためのハングオフをやるのです。
実はこれ、とても簡単なようで難しいのです。低い速度ほどふらつきやすいのですから、ことは簡単ではないのですが、いかがでしょう。速度を出さなくても、CKM厳守というモノサシがあれば、そこから外れた場合に「外れる」という自覚が生まれ、その問題点を解決する方法を見つけることが可能なはずです。

CKMを厳守するほど、カーブ手前からカーブ出口まで、実にさまざまな作業を繊細に行う必要性があることに気が付くはずです。逆に自分の都合の良い「走りやすいライン」と「速いスピード」にすると、実は「やるべき作業」「知っておくべき作業」をどんどん省略することになるのです。

たとえば「S字」の道を、CKM走法でど真ん中を維持すれば、その分だけクネクネ曲がらないといけないので作業量が多いのです。ところがS字の道を直線的に駆け抜けたらどうでしょう。サーッと走り抜けてしまえるから「速い」ですが「練習量は増えますか?」。これをショートカットと呼ぶとしたら、結局のところ、練習をサボることと同じではないでしょうか。ショートカットで速く駆け抜けるから、走った気になるだけで繊細な情報をどれだけ感じ取れたかは別の話になるのです。

適当な、あるいは自分に都合の良いラインや速度やフォームで、何万キロ走っても、何十年走っても「慣れる」だけで正確性の有無はわかりません。大体飛ばす人ほど、実は「速い」だけで「本当に上手い」とは言えないことが多いのです。スピードの魔力に憧れたり、酔ってしまうし、低い速度なんて「簡単だから」と軽視し、あるいは見下すのです。

速度が出るほどライダーはスピードに満足し、一方の本質を見ると緊張して情報収集力が低下してしまうのです。緊張度が高まるほど視野も狭く、実際には目が開いていても自分や周囲の状況やモノが見えなくなるからです。

「速さ」を増すことがそのまま危険性を増すこと。つまり「速さ」だけでは事故に直結しやすいと考えます。だからCKM厳守はとても難しいから、余計な速度は出せないことになります。その中で、ハングオフなどいろいろと体を動かしてみるとバイクの動き方、曲がり方が変わることに気が付きます。

速度が出ないようにするひとつの抑制方法として体を大きく動かして、その可動域を確保し、緊張や苦手テクの検証に使うのです。KRS流は、つまり、合法的な速度で効果的な練習をする。そのための法定速度内の究極の安全運転であり、バイクの動きと体の動きの連動から真の楽しさを発見するのです。
実際にはセンターラインを割った割らないのグレイなカーブでの事故例(正面衝突)が非常に多く、いつまでも決着がつかないケースが多く、お互いにこれは不幸になるだけです。練習効果と安全と合法性を考えて自分の車線の中央のみ走行:CKMこと、センター・キープ・メソッドを実行すれば、そのリスクは大幅に減らせる訳です。結果的に、これは速度が出さないので安全になるのですが、速度が出ずにバランス補正の目標としてCKMを厳守するのだから、他の誰かに無理について行く高いリスクよりもはるかに健全で楽しいのです。

本当に上手な方は、ゆっくり走行であっても、場所を選ばず、ふらつきません。カーブはもちろん、タイトな上り坂カーブでもハングオフが、リーンアウトが、あるいはもっとも美しいリーンウィズがふらつかずにできる余裕があります。

ビギナーやリターンライダー、あるいは基礎をきちんと学び直したい方は、CKM厳守などその技術的余裕:狙った技術をどのように習得するか。これがKRSのテーマなのです。言い換えると受講生は速く走るテクニックを習うのではなく、今よりも安全かつ楽しく上達するための方法論を能動的につかみ取ることがテーマなのです。

だからといって他の方法を否定したりするなど排他的なことはしません。意味がないです。良いもの、好みに合うものは受講される側が自分の判断で選べばいいのです。だから柏流はひとつの提案でしかないのです。ハンドルを握るのは貴方自身、どう習うかどうかの判断も貴方自身でしかないのですから。

コーナリングはリーンウィズで十分ではないか。確かにそうです。でも、それでは現実は前に行かないことが多いのです。えてしてそれは「地蔵乗り」になるからです。

リーンウィズはできる。できるから習う必要はない。となりやすい。現状で満足したり、危険の正体を知らないまま乗り続けるだけなのです。実はその大半はリーンウィズでさえも十分にできていないもの。あるいは形ができても、形の内側にある問題点が何も解決できないことが多い。安全速度内で自在に動けるのか不明な人は、解決の糸口が見つけられないと思います。

きちんと習うことでさまざまな発見:自分の不足点:身体的なこと、平常心の確保、なくて七癖の癖のありかと直し方、バイクの機械的・物理的な理解、そしてもっとも重要な実際にありがちな事故のパターンと、その対処方法なども交えて、KRSはさまざまなことを有機的にアドバイスしながらレベルアップをしていただきます。

ハングオフが目的ではなく、先読み、自分読みのためのひとつの事例としてのハングオフの意味がここにあるのです。多くのフォームという持ち駒を持つことが、技術不足認識や操作の正確性認識につながります。

Uターンだって右と左回りでは得手不得手があると思いますが、その改善処方箋を多くは放置している。でも、わかって改善を進めるとさらに安全と楽しさが実感できる。バイクとはそういう乗り物だと思います。

ハングオフにすることでロール速度を抑えたり、バンク角を余裕で残すことにもつなげます。KRSは深いバンクをしないでも安全で楽しい走りを目指しています。ちなみに私もタイヤの端をできるだけ使わないようにしてライディングを愉しんでいます。

CKMひとつでも、実は本当にできていない。やれているつもりで、できていない。ライディングはスロットル、前後ブレーキ、あるいは時にクラッチも含めつつ、微細なステア操作を加味した運転で成り立っているもの。飛ばすほど、細かなことを省略できるというのがバイクという乗り物。省略が多いから速く走れてしまう乗り物。でも、その省略が魔物に、ある時、急に変身してしまう。

だからある時、不幸が起きた時も「飛ばしていなかった」などと勝手に思っているのです。実際の速度が遅くても速くても「安全マージンがどれぐらいあるのかを知らなければ真の安全はあり得ない」ものなのです。飛ばしていなくても安全マージンがなければ、実は危険行為なのです。でも、たまたまABSブレーキやトラコンなどのバイクが助けてくれるとか、たまたまグリップの良い路面があったからとか、たまたま対向車が早く気がついてくれたから、助かっているだけなのです。

だから柏流ハングオフはゆっくり走行にプラスして「自分の車線の中央維持」:センター・キープ・メソッドが厳守なのです。

飛ばさなくても安全に確実に上手くなる方法があるのに、飛ばさないと上手く慣れないと思い込んでいる方が多すぎます。たとえば教習所などでも、まして公道でも自分の車線のど真ん中をきっちりと維持する走りが、とにもかくにも大切なのです。

そして道幅が狭くてセンターラインがない道ではL1。左の白い線があればそこから1メートルを厳守して走ります。滑るものなどがある時はその限りではありません。

このCKMやL1の方が「安全運転のつもりで、適当に走る」よりも安全確実。センターラインやガードレールに寄ってしまう、ハラハラドキドキする走行よりもはるかに安全で、ゆっくり走行なのに練習にもなる。つまり、安全運転と意識アップ・技術力アップが同時に叶う方法ともいえるのです。

逆に言えば「ゆっくり走行」でセンター・キープ・メソッドしながら、自由自在に大きく動ける一例としてハングオフできるぐらいの余裕こそが大切。リーンウィズだから安全とか、飛ばしていないから安全というのは、単なる思い込みになりやすいのです。

CKMによる、さまざまなフォームでの自在性をともなうゆっくり走行。その結果のひとつとしてのハングオフ。本当に危険なのことは、「普通に走ればいい」という「気付き」のない世界に漫然と漂うこと。そして逆に飛ばせるようになって「上手くなった」と錯覚する勘違い。

いろいろ長くなりましたが、安全って簡単ではありませんね。でも、けっして安全は退屈ではないし、いろいろなアイデアが運転として、正しい道のあり方として、あるいはもっと効果的な安全運転教育が見えてくるかもしれない。「安全」こそクリエティブなことが見つけ出せるアイデアの宝庫になるかもしれません。安全はけっして退屈ではなく、むしろ極めてダイナミックで奥深いものだと思うのです。