柏 秀樹 OFFICIAL BLOG
ヒデキの部屋

  • ひとりごと…

世界最速のバイクよりも世界最速の上達ポイント

世界最速車ハヤブサに負けじとカワサキが用意したZX-12R。これは2001年のインターモト用に配布した紙焼き写真で型式A2(いわゆる初期型ではなく2番目の機種)だ。
低重心で風を切り裂くハヤブサに対して、カワサキは得意の空力特性を最大限に活かした速さだけではなく、ピッチングモーションを活かした運動性も考慮した作りこみを行なったと私は解釈している。
その後に欧州での超速バイクへ290km/h規制がかけられたが、ハヤブサは300km/h以上の呪縛から解放されてモデルチェンジで少しだけピッチングモーションを大きくとる方向へシフトした。

ZX-12Rは300km/hを超えてもさまざまな路面でフルボトムしないサスペンション設定は当然のようにかなりの高荷重設定となるわけで、一般的な走行では決して乗りやすいとは言えなかった。

エンジンパワーは中高回転の伸びが素晴らしいだけではなく低回転でもスロットルレスポンスが良すぎる。まさに敏感過ぎるというべき次元。そのため小さくUターンするときは非常にスロットル操作を繊細にしなければならないわけで、これがなかなか難しい。
しかも強大なパワーに対応できるクラッチ能力とするためにクラッチ・スプリングの荷重設定も強め。つまり、レバー操作が重い。その上でクラッチのタッチが非常に繊細でわずかな操作でいきなりパワーが繋がってしまうタイプ。そしてフルステアにすればハンドルグリップと燃料タンクとのクリアランスがギリギリなためにグリップを持つ手の角度が悪いとタンクとグリップの間に手が挟まってしまう。
なのでフルステア・フルバンクのUターンの難易度がかなり高いバイクだった。

特にフルステアといって右いっぱいにハンドルを切って固定したまま、車体を深くバンクした状態を維持する時にさらにタンクとグリップの間は厳しくなってしまう。右回りなら右手が伸び切ってしまうほど右に深くバンクしてリーンアウトのフォームにならざるを得ないからだ。
何もそこまでしなくてもいいのだが、そうすることで他のライダーなら身長やスキルによって難易度はさらに高まるだろうと予測できる。
とりわけクラッチミートのレバー操作はレバー先端で0.5ミリ程度の動きでパワーが断続されてしまうぐらいに繊細。しかもスロットル操作のわずかな開閉でエンジン回転は鋭くレスポンスする上にブレーキタッチがシャープだから、リヤ主体のブレーキとなるのだがパワーを上手く制御するのも高難易度となってしまう。
相当な練達ライダーでも高い注意力が欠かせないし、小さくゆっくり回るのは難しい。

普段からスロットル一定(アイドリングよりもプラス500回転)がどれだけ重要か。
クラッチもどれだけ一定か。動かして良いのはレバー先端で1ミリ前後ぐらいにシビア。
あとはリヤブレーキ主体で、慣れてきたらフロントも使いながらのUターンとなる。

別にコンパクトなUターンなんて無理してやることではないが、どんなバイクでも低速からサクサク乗れるようになるためには、ちゃんとした学習方法で正確な技術を習得するしかない。

適当なスピードでグルグル回るだけなら誰でもできるかもしれない。しかし、その次、その先は見えてこないし、スピードが出ている状態でのUターンでは路面が良いとか、傾斜がない場所とか、扱いやすいバイクだけしか乗れないことになるし、転倒リスクは減らない。

安定したスキルを、常にどんな場所でも、どんなバイクでも引き出せること。それが基本力と言うもの。
過去に相当数のバイクにテスト走行で乗ってきたが一言で言うなら、Uターンがやりにくいバイクは大雑把に言うとの全体的に乗りにくいと推定できる。でも、基本力があればどんなバイクでもすぐに友達になれて楽しい。

マイナーチェンジ型では各部を洗練、特にフロントのエアインテーク形状を見直して、まとまりのあるスタイルを得ながら、各部の作り込みも上々のZX-12Rは進化したが、流石にビッグヒットには繋がらなかった。

そんなZX-12Rの大いなる反省を込めて生まれたZZ-R1400→ZX14Rは作り手の知性とバイク作りへの深い愛を感じると言えるほど洗練された最速バイクへと駒を進めた。

ちゃんと乗れる運転スキルがあると、作り手との、言わずもがなのコミュニケーションが深く取れる。
無理に飛ばさなくても、その本質が汲み取れる。それがもっとも大切な基本力の世界。
バイクに限らずあらゆるスポーツでも、あるいは他の分野でも、これは重要なことではないか。

手強いバイクの代表格でもあったZX-12Rを見るにつけ、ついそんなことを思った。